Insights · 2026.10.14 · 一般向け

ストレスチェックが全企業に義務化へ:「測るだけ」で終わらせないために

2028年4月から、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックが義務化されます。制度の基本から、研究でわかってきた「効果の限界」、そして見落とされがちなプレゼンティーイズムまでを整理します。シリーズ第1回。

町工場を兼ねた小さな会社の事務所で、社員が職場のストレスに関する質問票に記入し、経営者と同僚がそばで見守っている様子
イメージ画像(AI生成)

2028年4月から、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックが義務になります。日本の企業の大半は中小企業です。働く人のメンタルヘルス対策が、ようやく「すべての職場」に広がることになります。

ただし、研究を見ていくと、ストレスチェックは「実施するだけ」では効果が確認されていないことも見えてきます。このシリーズでは、ストレスチェックの義務化を入り口に、企業・保険会社・医療制度がこれから担う役割を3回に分けて考えます。第1回は、制度の基本と、その限界についてです。

3行でまとめると

  • ストレスチェックは、年1回、働く人が質問票に答えてストレスの状態を調べる制度です。2028年4月からは50人未満の事業場も義務化されます。
  • 研究では、質問票と医師面接だけでは効果は乏しく、職場環境の改善と組み合わせて初めて小さな効果がみられています。結果を「測ったあと」の評価の仕組みがないことが、最大の課題です。
  • 企業の健康コストで最も大きいのは、休職よりも、出勤していても調子が悪く力を発揮できないプレゼンティーイズムです。ストレスチェックは、ここを捉えにくい設計になっています。

ストレスチェックとは

ストレスチェックは、2015年12月に始まった、働く人のストレス状態を調べる制度です。これまでは常時50人以上の労働者がいる事業場に、年1回の実施が義務づけられていました。

流れは、おおまかに次のとおりです。

  1. 質問票に答える:国が推奨する「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)などで、仕事の負担、周囲の支援、心身の反応などを答えます。
  2. 結果は本人に届く:結果は本人に直接通知され、本人の同意なしに会社が個人の結果を見ることはできません。
  3. 高ストレスの人は医師の面接を受けられる:本人が申し出ると、医師による面接指導を受けられます。会社は、医師の意見を聞いて、必要があれば働き方を調整します。
  4. 職場ごとの集計(集団分析):部署ごとなどに結果をまとめ、職場環境の改善に生かします。ただし、これは努力義務にとどまっています。

つまり、ストレスチェックは「病気を診断する検査」ではありません。本人の気づきと、職場の改善を促すための仕組みです。

2028年4月から、50人未満の事業場も義務に

2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、2028年(令和10年)4月1日から、50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されます。施行日は、2026年6月に公布された政令で定められました。

現状を見ると、差は大きいままです(厚生労働省「労働安全衛生調査(実態調査)」2023年。同省の検討会の中間とりまとめより)。

50人以上の事業場 50人未満の事業場
ストレスチェックの実施率 81.7% 34.6%
集団分析の活用 52.1% 17.3%(10〜49人)

小さな職場には、大企業とは違う難しさがあります。

  • 産業医がいない:50人未満の事業場には産業医の選任義務がないため、外部の機関に委託するのが基本になります。
  • プライバシーを守りにくい:人数が少ないと、集計結果からでも個人が推測されやすくなります。
  • 配置の調整がしにくい:高ストレスの人の働き方を変えようにも、異動先の部署がないことも少なくありません。

国の検討会でも、小規模事業場向けのマニュアル整備や、無料で相談に応じる地域産業保健センターの強化が課題に挙げられました。これを受けて、2026年2月には厚生労働省から「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」が公表されています。

問題点:「測ったあと」が弱い

ストレスチェックの最大の課題は、実施すること自体が目的になりやすいことです。研究からは、次のことがわかってきています。

医師面接を受けるのは、高ストレスの人の約1割

国のマニュアルによれば、高ストレスと判定された人のうち、実際に医師の面接を受けているのはおよそ1割とされています。「会社に知られたくない」「評価に響くのでは」という不安が、申し出をためらわせていると考えられます。

質問票と面接だけでは、効果は乏しい

制度が始まった当初、東京大学の川上憲人氏らは、制度で義務づけられた部分(本人への結果の通知と医師面接)は、それだけでは効果がない可能性があると指摘しました。一方で、ストレス対処の研修や職場環境の改善を組み合わせれば、効果が期待できるとしています。

実際に、制度開始後の約2,500人を1年間追った研究では、

  • ストレスチェックを受けただけのグループでは、心理的ストレスに目立った改善はみられませんでした。
  • ストレスチェックと職場環境の改善の両方を経験したグループでのみ、心理的ストレスが有意に改善しました。ただし、その効果は小さなものでした(効果量 d = −0.14)。

指標そのものには意味がある

一方で、ストレスチェックの「高ストレス」判定が、将来の休職と関係することも示されています。

  • 幅広い業種の約1,700人を追った研究では、高ストレスと判定された人は、その後の約10か月の間に1か月以上休職するオッズ(起こりやすさの比)が約3.5倍でした(オッズ比3.54)。
  • ただし、質問票の回答から精神疾患による長期休職を予測するモデルの精度は中程度(AUC 0.77)で、研究者自身も「制度のさらなる改良が必要」としています。

つまり、物差しとしては意味があるが、測ったあとに何をするかで価値が決まるということです。

結果を評価する仕組みがない

いまの制度では、企業が労働基準監督署に報告するのは、主に「実施したかどうか」です。ストレスチェックの後に、

  • 休職者や離職者は減ったのか
  • 職場の環境は改善したのか
  • 社員が力を発揮できるようになったのか

といった結果(アウトカム)を評価する仕組みは、制度に組み込まれていません。測定はしているのに、効果を確かめていない。これが、制度の最大の弱点だと私たちは考えています。

プレゼンティーイズム:休んでいない人の「見えない損失」

プレゼンティーイズムとは、出勤はしているものの、心身の不調のために本来の力を発揮できていない状態のことです。頭痛、肩こり、睡眠不足、気分の落ち込み、胃腸の不調などがあると、仕事の質や量は落ちていきます。

日本の製薬企業4社の社員を対象にした研究では、健康に関わるコストを内訳に分けると、次のようになりました。

内訳 1人・年 割合
プレゼンティーイズム 3,055ドル 64%
医療費・薬剤費 1,165ドル 25%
欠勤(アブセンティーイズム) 520ドル 11%

さらに、コストが大きかった病気の上位には、メンタルヘルスの不調と筋骨格系の不調(腰痛・肩こりなど)が入っていました。

ここに、ストレスチェックとのずれがあります。ストレスチェックは、主に高ストレスの人を見つけて、病気や休職を防ぐことを目的に設計されています。一方で、企業にとって最も大きな損失は、休むほどではないが、調子が悪いまま働いている多くの人から生まれています。ストレスチェックの結果だけを見ていると、この大部分が見えなくなってしまいます。

中小企業が、まずできること

義務化を「負担」で終わらせず、職場をよくする機会にするために、まずは次の4点をおすすめします。

  1. 外部委託先は「実施後の支援」で選ぶ:価格だけでなく、集団分析の報告や、改善策の提案まで支援してくれるかを確認します。
  2. 集団分析をできる範囲で行う:小規模な職場では、個人が特定されないよう、集計の単位を工夫します。なお、国のマニュアルでは、10人未満の集団では原則として集団分析を行わないこととされています。
  3. 改善は「一つだけ」決めて実行する:結果を見て、会議の時間、業務の分担、休憩の取り方など、一つだけ変えてみます。
  4. 翌年、同じ物差しで比べる:ストレスチェックの結果に加えて、休職日数、離職、プレゼンティーイズムの状態を、毎年同じ方法で記録します。

本当の問題は、データが「つながっていない」こと

ここまで、ストレスチェックの弱点を見てきました。しかし、より根本的な問題は別のところにあります。

働く人は、毎年の健康診断も法律で受けています。血圧、血糖、脂質、肝機能、問診での睡眠や生活習慣。会社の中には、心の状態(ストレスチェック)と体の状態(健康診断)のデータが、同じ人について毎年そろっているのです。それなのに、二つは別々の制度として運用され、ほとんど突き合わされていません。

せっかく毎年集めているデータが、互いにつながらないまま眠っている。次回は、この二つをつなぐと何が見えてくるのか、そしてそれを誰が担えるのかを考えます。

シリーズ「ストレスチェック義務化から考える、働く人の健康と医療制度」

参考文献

  1. 厚生労働省 佐賀労働局. 労働者数50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務になります(令和10年4月1日施行。施行日は令和8年政令第195号で規定).
  2. 厚生労働省. ストレスチェック制度等のメンタルヘルス対策に関する検討会 中間とりまとめ(2024年11月).
  3. 厚生労働省. 小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル(令和8年2月).
  4. 厚生労働省. 医学的知見に基づくストレスチェック制度の高ストレス者に対する適切な面接指導実施のためのマニュアル(2021年9月版).
  5. Kawakami N, Tsutsumi A. The Stress Check Program: a new national policy for monitoring and screening psychosocial stress in the workplace in Japan. J Occup Health. 2016;58(1):1-6.
  6. Imamura K, et al. Effect of the National Stress Check Program on mental health among workers in Japan: A 1-year retrospective cohort study. J Occup Health. 2018;60(4):298-306.
  7. Kawamura T, Kobayashi D. Predictability of the National Psychological Stress Screening for Subsequent Long-Term Psychiatric Sick Leave Among Employees: A Multicenter Nested Case-Control Study. J Occup Environ Med. 2024;66(5):433-438.
  8. Tsutsumi A, et al. Prospective association between high stress profile as defined using the Japanese Stress Check Program manual and long-term sickness absence among a working population with various backgrounds: a two-wave longitudinal study. Environ Occup Health Pract. 2025;7(1).
  9. Nagata T, et al. Total Health-Related Costs Due to Absenteeism, Presenteeism, and Medical and Pharmaceutical Expenses in Japanese Employers. J Occup Environ Med. 2018;60(5):e273-e280.

執筆:藤井祐介(Ph.D. 微生物学・免疫学/東京大学大学院医学系研究科 客員研究員)。本記事は研究知見の一般的な解説であり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。また、特定の製品の効能効果を示すものではありません。健康上の判断は医師にご相談ください。

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