Insights · 2026.10.15 · 一般向け

健康診断とストレスチェックをつなぐ:データを生かす仕組みと保険会社の役割

働く人の心と体のデータは、毎年同じ会社の中にそろっています。それでも二つは別々に運用されています。つなぐと何が見えるのか、プライバシーを守りながらどうつなぐのか、そして保険会社に何ができるのかを考えます。シリーズ第2回。

社内の健康相談室で、産業保健師が社員と向き合い、健康診断の結果とストレスチェックの結果を並べて説明している様子
イメージ画像(AI生成)

第1回では、ストレスチェックが「測るだけ」で終わりやすいことを見てきました。しかし、もっと大きな問題があります。

働く人は、毎年健康診断とストレスチェックの両方を受けています。会社の中には、同じ人の体のデータと心のデータが毎年そろっているのです。それなのに、この二つはほとんど突き合わされていません。第2回は、二つをつなぐと何が見えるのか、どうつなぐべきか、そしてそれを誰が担えるのかを考えます。

3行でまとめると

  • 健康診断とストレスチェックは、働く人のプライバシーを守るために、あえて別々の制度として設計されています。その結果、二つをつなぐ仕組みが作られてきませんでした。
  • 同じ社員の二つのデータを突き合わせた日本の研究では、高ストレスの人に高血圧や睡眠の問題が多いという傾向が報告されています。つなげば、心と体を一体で支える手がかりになります。
  • データを生かす担い手として、会社と健康保険組合に加え、健康づくりに応じて保険料が変わる保険を始めた保険会社にも、新しい役割が生まれつつあります。

なぜ二つは別々なのか

健康診断とストレスチェックは、どちらも労働安全衛生法にもとづく制度です。しかし、データの扱いは大きく違います。

健康診断 ストレスチェック
会社は結果を見られるか 見られる(記録の保存義務あり) 本人の同意がなければ見られない
主な目的 病気の早期発見と、働き方への配慮 本人の気づきと、職場環境の改善
結果を使う人 会社、産業医、健康保険組合 本人、実施者(医師・保健師など)

ストレスチェックの結果を会社が自由に見られないのは、「高ストレス」と知られて、異動や評価で不利益を受けないようにするためです。この配慮は大切です。

ただ、その結果として、心の状態と体の状態を一緒に見る仕組みが作られてきませんでした。守るために分けたことで、つなぐ設計が後回しになってきたのです。

つなぐと、何が見えるのか

実際に二つのデータをつなぐと、何が見えるのでしょうか。日本の大手企業で、同じ年のストレスチェックと健康診断のデータを、同じ社員について突き合わせた一連の研究があります。

健康診断・問診の項目 高ストレスの人の傾向 対象
高血圧 年齢や生活習慣を考慮しても、約1.2倍多い 男性社員 約1.9万人
糖尿病 約1.3倍多い。ただし生活習慣を考慮すると差が消える 社員 約3.1万人
眠っても疲れがとれない 約3.7倍多く、強い関連 社員 約2.4万人

この結果から、次のことが読み取れます。

  • 心の負担は、体の数値にも表れている:ストレスチェックと健康診断は、同じ人の健康の別の側面を見ています。
  • 生活習慣が「つなぎ目」になっている可能性:糖尿病との関係は、食事や運動などの生活習慣を考慮すると消えました。ストレスが生活習慣を乱し、それが体に表れる、という経路が考えられます。
  • 睡眠は、心と体の交差点:「眠っても疲れがとれない」との関連は約3.7倍と、3つの研究の中で最も大きな数字でした。この研究では、調べた要因の中で高ストレスが最も強く関係していました(研究ごとに対象や考慮した条件が異なるため、数字の単純な比較には注意が必要です)。

ただし、これらはある一時点のデータを比べた研究で、ストレスが病気を引き起こしたとまでは言えません。それでも、二つのデータを重ねるだけで、どの職場で、誰に、何から手をつけるべきかが見えてくることは確かです。

検査項目を増やす前に考えるべきこと

「それなら、健康診断に項目を追加すればよい」と考えるかもしれません。法定の健康診断は、主に生活習慣病のリスクを見る項目で構成されていて、睡眠の質や栄養状態、心の状態を直接みる項目は限られています。

ただし、結果の使い道が決まっていない検査を増やすと、ストレスチェックと同じ「測るだけ」を繰り返すことになります。世界保健機関(WHO)が1968年に示した検診の原則でも、見つかった問題に対して確立された治療法があること、そして誰を治療の対象とするかについて合意された方針があることが条件として挙げられています。

項目を足すなら、「何を測り、結果を誰が、どう使い、翌年どう評価するか」をセットで設計することが欠かせません。

プライバシーを守りながら、どうつなぐか

私たちは、次の三つの段階でつなぐことを提案します。

  1. 個人のレベル:本人の同意のもとで、専門職が両方を見る 産業医や保健師などの専門職が、本人の同意を得て、ストレスチェックと健康診断の結果を一緒に確認します。会社には、必要な配慮の内容だけを伝えます。
  2. 集団のレベル:匿名化して重ねる 個人が特定されない単位で、部署ごとのストレスの傾向と、健康診断の所見(血圧、睡眠など)を重ねて分析します。職場環境の改善の優先順位を決める材料になります。
  3. 結果のレベル:翌年の変化で評価する ストレスの状態、健康診断の数値、休職、そして第1回で取り上げたプレゼンティーイズムの変化を、毎年同じ方法で確認します。

誰が担うのか:会社、健康保険組合、そして保険会社

会社と健康保険組合

国も、この方向に動き始めています。厚生労働省は2015年度から、健康保険組合などが健診やレセプト(診療報酬明細書)のデータを分析して健康づくりを進めるデータヘルス計画を進め、2017年には、会社と健康保険組合が連携するコラボヘルスのガイドラインもまとめています。

ただし、こうした取り組みの中心は健康診断とレセプトのデータで、ストレスチェックのデータはその輪にほとんど入っていません。また、中小企業の多くは、大企業のような独自の健康保険組合ではなく、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入しています。小さな会社ほど、データを生かす体制を自前で持つことは難しいのが現実です。

保険会社:健康づくりに関わる「新しい担い手」

ここで注目されているのが、民間の保険会社です。

その代表例が、住友生命が2018年に発売した健康増進型保険「Vitality」です。健康診断やがん検診の受診、日々の歩数などの取り組みがポイントになり、発売時の仕組みでは、1年間の取り組みに応じて翌年の保険料が最大30%割り引かれ、取り組みが少ないと最大10%割り増しになるとされています。2025年1月には、累計の契約が200万件を突破したと同社が発表しています。

この仕組みは、南アフリカのDiscovery社が始めたプログラムがもとになっています。同社の健康保険の加入者約30万人を分析した研究では、

  • プログラムの参加者のうち、運動しない人の割合が5年間で76%から68%に減りました。
  • 運動を続けた人は、運動しなかった人に比べて、その後の入院の確率がわずかに低くなりました(20.7%対22.2%)。

一方で、慎重に見るべき点もあります。

  • 観察研究である:もともと健康意識の高い人が参加し、運動を続けている可能性があります。
  • 公平性の問題:病気や障害、仕事の事情で運動しにくい人ほど、保険料が上がる仕組みになりえます。
  • データの扱い:健康データを保険会社がどこまで使ってよいのか、透明なルールが必要です。

保険会社に期待できること

それでも、保険会社には、会社や健康保険組合にはない強みがあります。

  • 長い時間軸:生命保険は数十年単位の契約です。予防の効果が出るまでの長い時間を、事業として待つことができます。
  • 行動を続けさせる仕組み:ポイントや保険料の割引など、健康づくりを「続ける理由」をつくることができます。
  • 会社の規模に左右されない:中小企業で働く人や、個人事業主にも届けることができます。

私たちは、保険会社がこの強みを、歩数のような分かりやすい指標だけでなく、健康診断とストレスチェックを一体で見る仕組みに生かせるかどうかが、これからの分かれ目になると考えています。会社、健康保険組合、保険会社、そして医療機関が、それぞれの役割を持ってデータをつなぐ。そうして初めて、毎年の検査が「結果」につながります。

次回予告:皆保険は、このままで支えられるのか

予防や健康づくりに民間の力が求められる背景には、国民皆保険制度そのものの重さがあります。第3回では、増え続ける医療費と保険料の負担、混合診療の議論、そして公的保険と民間保険の役割分担を考えます。

シリーズ「ストレスチェック義務化から考える、働く人の健康と医療制度」

参考文献

  1. Sekizuka H, et al. High job stress evaluated using the Brief Job Stress Questionnaire as an independent risk factor for hypertension among a Japanese male occupational population. Blood Press Monit. 2025;30(1):24-29.
  2. Sekizuka H, et al. Job stress evaluated using the brief job stress questionnaire and diabetes mellitus among a Japanese occupational population. Diabetol Int. 2025;16(2):339-347.
  3. Sekizuka H, et al. High job stress evaluated using the Brief Job Stress Questionnaire as an independent factor for nonrestorative sleep among Japanese workers. Sleep Biol Rhythms. 2025;23(4):445-453.
  4. Wilson JMG, Jungner G. Principles and practice of screening for disease. Public Health Papers No. 34. World Health Organization; 1968.
  5. 厚生労働省. データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン.
  6. Patel D, et al. Participation in fitness-related activities of an incentive-based health promotion program and hospital costs: a retrospective longitudinal study. Am J Health Promot. 2011;25(5):341-8.
  7. 住友生命保険相互会社. 未来を変えていく、健康増進型保険 新商品“住友生命「Vitality」”の発売等について(2018年7月17日).
  8. 住友生命保険相互会社. 健康増進型保険“住友生命「Vitality」”累計200万件突破!(2025年1月21日).
  9. 厚生労働省. ストレスチェック制度に関する法令(労働安全衛生法 第66条の10 ほか).
  10. 厚生労働省保険局. データヘルス計画のこれまでの経緯と第3期に向けた課題等について.

執筆:藤井祐介(Ph.D. 微生物学・免疫学/東京大学大学院医学系研究科 客員研究員)。本記事は研究知見の一般的な解説であり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。また、特定の製品の効能効果を示すものではありません。健康上の判断は医師にご相談ください。

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