ストレスと腸内細菌:わかってきたことと、まだ言えないこと
腸内細菌とストレス・気分の関係は、動物実験からヒトの試験まで多くの研究があります。ビフィズス菌科や酪酸産生菌の報告を整理しつつ、個体差を考えると「共通の型」は現時点で見つかっていない理由を解説します。

「ストレスを感じると、お腹の調子が変わる」。多くの方に覚えのある感覚ではないでしょうか。近年は、腸内細菌がこの脳と腸のつながり(脳腸相関)に関わるという研究が、動物からヒトまで数多く発表されています。では、「どんな腸内細菌なら、ストレスに強いのか」。この記事では、これまでの主な研究を順に整理し、現時点で何が言えて、何がまだ言えないのかを考えます。
3行でまとめると
- 動物実験からヒトの試験まで、腸内細菌とストレス・気分の関連を示す知見は積み重なっています。ヒトの観察研究では酪酸をつくる菌の減少が、介入試験ではビフィズス菌科や乳酸菌科の増加(投与した菌そのものの増加を含みます)が、繰り返し報告されています。ただし、ヒトの観察研究の対象は、主にうつ病などの精神疾患や生活の質です。
- しかし、腸内細菌は民族、食習慣、生活環境、薬などによって人ごとに大きく異なります。ストレスの指標が改善した試験にも、共通する菌のパターンは見つかっていません。
- 現時点では、「この菌の型ならストレスに強い」と言える段階にはありません。検査は目的に応じて使い分け、結果の解釈と活かし方には慎重さが必要です。
腸と脳のつながり:動物実験が示したこと
脳腸相関の研究は、動物実験から大きく進みました。
無菌マウスのストレス反応(Sudo ら、2004年):腸内細菌をもたない無菌マウスは、拘束ストレスに対するストレスホルモン(ACTH、コルチコステロン)の上昇が、通常のマウスより大きいことが示されました。この過剰な反応は、ビフィズス菌(Bifidobacterium infantis)を定着させると抑えられました。また、通常のマウスの便を定着させた場合は、生後早い時期であれば部分的に是正され、遅い時期では是正されませんでした。つまり、腸内細菌は、ストレス反応の仕組みが育つ時期に関わる可能性が示されたのです。
うつ病患者の腸内細菌を動物へ移植した実験(2016年):Kelly らは、うつ病患者34人と健康な対照33人を比べ、患者では腸内細菌の多様性が低いことを報告しました。その患者の便の細菌を、腸内細菌を減らしたラットに移植すると、快感の消失(アンヘドニア)や不安様の行動が現れました。Zheng らも、うつ病患者の細菌を無菌マウスに移植して、うつ様行動を観察しています。
ただし、これらは動物での結果で、人間に同じことが起こると示すものではありません。2019年の総説(Cryan ら)も、免疫系、トリプトファンの代謝、迷走神経、腸の神経系、短鎖脂肪酸などの経路を整理したうえで、人での研究は進行中であるとしています。なお、Sudo らの実験では、病原性をもつ大腸菌だけを定着させると、ストレス反応はむしろ強まりました。「ビフィズス菌だから良い」という単純な話ではなく、無菌という特殊な条件での結果でもあります。
ヒトの観察研究:共通する菌の報告もある
では、人ではどうでしょうか。
ベルギーの一般住民約1,050人(さらに検証用の独立データ約1,070人)を調べたValles-Colomer らの研究では、酪酸をつくる Faecalibacterium と Coprococcus が、生活の質が高いことと一貫して関連していました。Coprococcus と Dialister は、抗うつ薬の影響を補正しても、うつ病で少ないことが示されました。
さらに2021年、Nikolova らは、成人の精神疾患を調べた59件の症例対照研究をまとめました。診断名ごとの特徴は乏しい一方で、うつ病、双極性障害、統合失調症、不安に共通して、Faecalibacterium・Coprococcus の減少と、Eggerthella の増加という「診断をまたぐ」パターンがみられたと報告しています。著者らは、炎症を抑える酪酸産生菌が減り、炎症を促す菌が増える傾向と解釈しています(解釈であり、炎症との関係を直接示したものではありません)。
ここで大切なのは、これらはある時点で比べた観察研究であることです。菌の違いが原因なのか、病気や生活の変化の結果なのかは、この方法では区別できません。薬や地域の影響も混ざり、Nikolova らもこれらの影響を評価していますが、交絡(結果をゆがめる別の要因)を完全には取り除けません。
介入試験:増える菌の報告はあるが、そろわない
次に、食事やプロバイオティクスなどでストレスの指標と腸内細菌の変化を見た、無作為化試験です。2026年9月に Nutrients に掲載された系統的レビュー(Asimakopoulou ら)は、2016年から2026年4月までの英語論文から、成人対象の無作為化試験29件を整理しました。参加者は17〜351人、期間は7日〜24週で、プロバイオティクスの試験が18件(62.1%)と多数でした。
繰り返し報告された変化は、次のとおりです。
- ビフィズス菌科・乳酸菌科の増加(ただし、投与した菌そのものが増えるのは当然で、著者らは区別して整理しています)
- ラクノスピラ科・ルミノコッカス科の菌の変化
- 食物繊維の発酵でできる短鎖脂肪酸に関わる特徴の変化
一方で、ストレスが改善した試験すべてに共通する、ひとつの菌や多様性のパターンは確認できませんでした。全体の多様性が変わらなくても心理面の指標が改善した試験があり、逆に菌が変わっても主要な指標が改善しない試験もありました。心の変化と菌の変化は、同じ試験の中でも並行しているとは限らず、菌の変化が改善を媒介しているかは結論できないとされています。
このレビューには限界もあります。試験の中身がばらばらで数値の統合ができず、結果は文章による整理にとどまること、偏りのリスクが高い試験が5件含まれること、エビデンスの確かさの格付け(GRADE)がないこと、英語論文に限られプロトコルの事前登録がないことです。運動や睡眠のみを介入とした試験は、条件を満たすものがありませんでした。
なお、72件の無作為化試験を統合した別のメタ解析(Zhang ら、2025年)は、プロバイオティクスなどの試験で、気分や睡眠の評価尺度にプラセボとの平均的な差を報告しています。ただし、試験間のばらつきが大きく、研究の質にも課題があるため、さらに大規模で質の高い試験が必要と結論しています。ここでは、この分野の研究の現状と限界を示す例として紹介したもので、特定の製品や食品の効果を述べるものではありません。
個体差:同じ「正解」はない
共通の型が見つかりにくい大きな理由が、腸内細菌の個体差です。
- 民族による違い:オランダ・アムステルダムの約2,100人を調べた研究(Deschasaux ら)では、同じ都市に住んでいても、民族的背景によって腸内細菌の組成が異なっていました。モロッコ系・トルコ系・ガーナ系では Prevotella、スリナム系では Bacteroides、オランダ系では Clostridiales の仲間が特徴で、多様性もオランダ系で最も高く、南アジア系スリナム人で最も低いと報告されています。この違いは、食事や生活習慣などの測定した要因では、一部しか説明できませんでした。
- 遺伝より環境:約1,050人を調べた研究(Rothschild ら)では、遺伝的な祖先との関連は有意でなく、同居する血縁のない人どうしの腸内細菌が似ていることが示されました。人ごとのばらつきの20%以上は、食事、薬、体格などに関連していました。
- 生活と薬の影響:ベルギーとオランダの約2,200人を調べた研究(Falony ら)では、69項目が腸内細菌の違いと関連し、薬が全体のばらつきを最も説明し、便の硬さが最も効果量の大きい要因でした。疾患の「目印」とされた菌の一部も、本人の生活や薬の要因と関連していました。
民族の違いが何を反映しているのかは、まだ解明の途上です。Deschasaux らの研究でも、測定した要因だけでは一部しか説明できていません。私は、遺伝そのものというより、食文化や住環境など、生涯にわたって受ける環境(エクスポソームと呼ばれる考え方です)の違いが関わっているのではないかと考えていますが、これは仮説です。また、ここで紹介した大規模な研究は欧州やイスラエルなどが中心で、日本人の集団での検証は別に必要です。
結論:共通の型は、今のところ見つかっていない
なお、紹介した研究が測っているのは、ストレス反応、うつ症状、生活の質、ストレス関連の指標などで、「ストレスへの強さ」そのものを直接測った研究ではありません。その点も、解釈の際には注意が必要です。
動物実験は、腸内細菌がストレス反応や行動に影響しうることを示しました。ヒトの観察研究では、酪酸産生菌の減少などの傾向が、研究をまたいで報告されています。しかし、介入試験でストレスが改善した人に共通する型は確認されておらず、民族、食習慣、生活環境、薬といった個体差を考えると、誰にでも当てはまる「ストレスに強い腸内細菌の型」は、現時点では見つかっていません。
実務にとっての意味
ここからは、研究の結果ではなく、私(藤井)の見解です。
- 報告されている傾向は、無視できない:ビフィズス菌科・乳酸菌科の増加や、酪酸産生菌の減少といった報告は、研究をまたいで繰り返されています。腸内細菌の検査が無駄だとは、私は考えていません。腸内細菌叢の評価は、ストレスを理解するためだけのものではありません。腸内の代謝産物や、病原性をもつものを含む腸内微生物全般の評価など、見るべきことは他にもあります。
- 目的を決めて、何のために測るのかを明確にする:腸内細菌叢、代謝産物、病原性微生物のどれを、何を知るために調べるのか。目的によって、適した検査も、読み取れることも変わります。本記事で述べた「共通の型は未確認」は、ストレスへの強さを特定の菌の型で言い当てることの難しさであり、検査そのものの価値を否定するものではありません。
- 解釈と活かし方には、慎重さを:個体差が大きいことを踏まえると、特定の菌の増減だけで個人を判定したり、結論を急いだりするのは避けるべきです。結果は、その人のいまの状態の一場面として、食事や生活、症状、他の検査とあわせて読む必要があります。
- 腸の話は、職場の環境改善の代わりにならない:ストレスの根本には、仕事の量や人間関係、睡眠不足があります。このシリーズで取り上げてきたストレスチェック制度でも、測ったあとの職場環境の改善と組み合わせて初めて、小さな効果がみられました。測定は、その後の解釈と対応がそろって意味をもちます。
よくある質問
Q. ビフィズス菌や乳酸菌が増えれば、ストレスに強くなりますか?
増加が繰り返し報告されている一方で、それがストレスの改善の理由かどうかは、現時点では結論できません。試験ごとに対象や期間、使った組成も異なります。
Q. 腸内細菌の検査を受ければ、自分のストレスへの強さがわかりますか?
民族、食習慣、薬などによる個人差が大きく、特定の菌の増減から個人のストレス耐性を判断できる状態ではありません。一方で、私の見解では、腸内細菌叢や腸内の代謝産物などの評価は、ストレス以外の目的でも意味をもちます。何のために調べるのかを決め、結果は参考のひとつとして、専門家とあわせて解釈してください。体調やストレスで気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。
Q. 結局、いま日常でできることはありますか?
この記事は、特定の方法を勧める目的ではありません。ここで紹介した研究から直接言えることではなく私の見解ですが、睡眠、食事、運動といった生活の土台や、職場・家庭での負担の見直しは、腸内環境の話とは別に大切だと考えています。個別の調整は、ご自身の状況に合わせて専門家と相談してください。
参考文献
- Sudo N, et al. Postnatal microbial colonization programs the hypothalamic-pituitary-adrenal system for stress response in mice. J Physiol. 2004;558(Pt 1):263-275.
- Kelly JR, et al. Transferring the blues: Depression-associated gut microbiota induces neurobehavioural changes in the rat. J Psychiatr Res. 2016;82:109-118.
- Zheng P, et al. Gut microbiome remodeling induces depressive-like behaviors through a pathway mediated by the host's metabolism. Mol Psychiatry. 2016;21(6):786-796.
- Cryan JF, et al. The Microbiota-Gut-Brain Axis. Physiol Rev. 2019;99(4):1877-2013.
- Valles-Colomer M, et al. The neuroactive potential of the human gut microbiota in quality of life and depression. Nat Microbiol. 2019;4(4):623-632.
- Nikolova VL, et al. Perturbations in Gut Microbiota Composition in Psychiatric Disorders: A Review and Meta-analysis. JAMA Psychiatry. 2021;78(12):1343-1354.
- Asimakopoulou S, et al. Targeting Stress and the Gut-Brain Axis: Effects of Lifestyle and Psychobiotic Interventions on the Gut Microbiome in Adults-A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. Nutrients. 2026;18(17):2909.
- Zhang J, et al. The efficacy of probiotics, prebiotics, and synbiotics on anxiety, depression, and sleep: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. BMC Psychiatry. 2025;25(1):1199.
- Falony G, et al. Population-level analysis of gut microbiome variation. Science. 2016;352(6285):560-564.
- Deschasaux M, et al. Depicting the composition of gut microbiota in a population with varied ethnic origins but shared geography. Nat Med. 2018;24(10):1526-1531.
- Rothschild D, et al. Environment dominates over host genetics in shaping human gut microbiota. Nature. 2018;555(7695):210-215.
執筆:藤井祐介(Ph.D. 微生物学・免疫学/東京大学大学院医学系研究科 客員研究員)。本記事は研究知見の一般的な解説であり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。また、特定の製品の効能効果を示すものではありません。健康上の判断は医師にご相談ください。