「若返る運動量」は存在するのか——『若さ』を測る物差しから考える
週150分の先に「若返る量」はあるのか。死亡との関連は最初の一歩に集中し、体力が同程度に上がっても細胞の指標は運動の種類で割れました。その「若さ」を、どの免疫細胞で、いつ測るのかを考えます。

ジムに通う人が増え、1kmを走っては重りを運ぶ「HYROX」のような競技まで生まれました。関心が高まるほど、同じ問いが繰り返されます。「若返るには、どれだけ、どんな運動をすればいいのか」。
データを並べると、この問いには先に答えておくべき問いが隠れています。その「若さ」を、何で、いつ測るのかです。ランニングでも筋トレでも体力は同程度に上がったのに、血液細胞のテロメアが伸びたのは片方だけだった、という無作為化試験があります。そして、その「若さ」の指標の多くは血液で測られ、筆者の専門である免疫の側から見ると、どの免疫細胞を測っているかに左右されうるものです。
なお、死亡や機能と同じ年単位の長さで、老化の指標を直接のアウトカムにした試験は、今回確認した範囲にはありません。この記事は運動・筋肉シリーズの第2回です。第1回安静という処方が奪うもの——10日のベッドで失う筋肉と、ミオカインの科学では、筋肉が動くたびに分子を送り出す分泌器官であることを扱いました。今回は「どれだけ、どう動かすか」を問います。
3行でまとめると
- 66万人の統合解析では、死亡リスクの低さとの関連の大半が「ゼロから推奨の最低量」の区間で現れ、推奨の3〜5倍で頭打ちになります。身体機能に制限のある高齢者の無作為化試験でも、運動プログラムは「歩けなくなる」ことを減らしました。
- 一方、6か月の無作為化試験では、体力(最大酸素摂取量)は3種類の運動で同程度に上がったのに、血液細胞のテロメアが伸び、テロメラーゼが上がったのは持久系だけでした。同じ体力向上でも、細胞の指標への「換算率」は運動の種類で違う可能性があります。
- 筆者の見解:「何分やれば若返るか」より先に、「どの細胞を、いつ測って若さと呼ぶか」を決めるべきです。その測り方をそろえることが、基礎と臨床をつなぐ最初の仕事であり、AIがずれにフラグを立てる土台になります。
常識の根拠:確かに言えること
まず、運動に有利なデータから確認します。良い結果は、はっきりあります。
WHOの2020年のガイドライン(Bull ら)は、成人に週150〜300分の中強度、または75〜150分の高強度の有酸素運動と、筋力を使う活動を定期的に行うことを勧めています。「少しでも、しないよりはよい」と同時に、「多いほど健康によい」とも述べています。
その量反応を最も大規模に描いたのが、Arem らの統合解析(2015年)です。米国と欧州の6コホート、661,137人(追跡の中央値14.2年、死亡116,686件)で、運動をしない人を基準にした全死亡のハザード比は、推奨の最低量に満たない人で0.80、1〜2倍で0.69、2〜3倍で0.63、3〜5倍で0.61でした。10倍以上は0.69で、害の証拠はありませんでした。推奨量に届かない運動でも20%低い関連があり、その先の上乗せは小さくなります。
「少し」の価値は、もっと短い単位でも見えます。運動習慣のない25,241人(平均61.8歳)のウェアラブル機器のデータ(Stamatakis ら、2022年)では、日常の中で1回1〜2分の息が上がる動き(階段や急ぎ足など)が1日3回ある人は、まったくない人より、全死亡とがん死亡のリスクが38〜40%低い関連がありました。
介入試験もあります。LIFE研究(Pahor ら、2014年)は、座りがちで身体機能に制限のある70〜89歳の1,635人を、有酸素・筋力・柔軟性を組み合わせた中強度のプログラムと、健康教育に無作為に割り付け、平均2.6年追いました。400mを歩けなくなる「主要な移動障害」は、運動群30.1%、健康教育群35.5%(ハザード比0.82、95%信頼区間0.69〜0.98)でした。重篤な有害事象の割合に有意な差はありませんでした。
筋トレについては、Momma らのメタ解析(2022年、16件のコホート研究)で、筋力を使う活動が全死亡などの10〜17%低いリスクと関連し、最大の低下は週30〜60分のあたりでした。それ以上では関連が弱まるJ字型で、多い量の影響は不明とされ、根拠の確実性は低いと評価されています。有酸素と組み合わせた人は、どちらもしない人より死亡リスクが低い関連がありました。
AremとStamatakisは観察研究で、「弱っているから運動できない」という逆の因果を完全には除けません。それでも、無作為化試験で機能の差が出ていることと合わせると、「動くことは、しないよりよい」という常識はかなり固い、と筆者は考えます。
常識を揺らす知見:同じ体力でも、細胞の指標は違う
では、どんな運動でも同じなのでしょうか。
Werner らの無作為化試験(2019年)は、運動習慣のない30〜60歳の266人を、持続的なランニング、高強度インターバル(4×4方式)、8台のマシンを使うサーキット型の筋トレ(いずれも週3回・45分)、生活を変えない対照群に割り付けました。6か月を完了した124人の解析で、最大酸素摂取量は3つの運動群で同程度に上がりました。ところが、血液の単核球のテロメラーゼ活性が2〜3倍になり、リンパ球と顆粒球のテロメアが伸びたのは、ランニングとインターバルの群だけで、筋トレ群では見られませんでした。なお、脱落とけがは持久系の2群で多く、結果は完了した人だけの解析です。
この試験には、もう一つ見逃せない結果があります。運動群の中で、最大酸素摂取量の伸びが平均を上回った人は、下回った人よりテロメラーゼの上昇が大きかったのです(テロメア長の変化は、体力の変化と関連しませんでした)。体力と細胞の指標は無関係ではない。けれども、同じ体力の伸びが細胞の指標にどれだけ「換算」されるかは、運動の種類で違って見える。筆者はそう読んでいます。1本の試験で、筋トレは20回反復できる負荷のサーキット形式だったため、重い負荷の筋トレでも同じかは分かりません。
「両方やると打ち消し合う」という心配(干渉効果)もあります。1980年のHickson の研究に始まり、その後のメタ解析では、干渉はランニング併用で目立ち自転車では目立たず(Wilson ら、2012年)、筋線維レベルの差は小さく境界的でした(Lundberg ら、2022年)。主に、筋肉を最大限に大きくしたい人の論点で、健康づくりの範囲では「両方」を妨げる理由にはなりにくいと考えます。
常識を揺らす知見:同じ運動への応答は、人によって違う
「週何分」という処方は、同じ運動が誰にも同じように効く前提に立っています。筋肉の側のデータは、その前提を揺さぶります。
Kumar らの研究(2009年)では、若い男性25人(平均24歳)と高齢の男性25人(平均70歳)が、最大挙上重量の20〜90%の強度で筋トレを行いました。運動後の筋たんぱく質の合成は強度に対してS字型に増え、60〜90%で頭打ちになりましたが、高齢者では同じ強度でも反応が鈍く、60〜90%の強度では合成を促すシグナルの立ち上がりも弱いものでした(いずれも空腹時の測定)。「同化抵抗性」と呼ばれる現象です。同じ研究室のRennie は総説で、不活動そのものが、若い人でもアミノ酸に対する同化抵抗性を生みうると述べています。
第1回のベッドレストとつなげると、安静で筋肉が「黙った」あとは、同じ運動に対する筋肉の応答が弱まっているかもしれません。ただし、強度や量を増やせば補えるかは、これらのデータからは分かりません(ここは筆者の解釈です)。
争点:ここは、まだ割れている
量には頭打ちがあるのに、体力には頭打ちがないのか。Arem らの運動量は推奨の3〜5倍で頭打ちになりましたが、運動負荷検査を受けた122,007人のデータ(Mandsager ら、2018年)では、心肺体力が最上位の「エリート」群は、一つ下の群よりもさらに死亡のハザードが低く(0.77、0.63〜0.95)、上限が見えませんでした。ただし体力は遺伝や健康状態にも左右され、単一施設の後ろ向き研究です。運動の「量」と、その結果としての「体力」は、同じ曲線を描くとは限りません。
強度は高いほどよいのか。平均72.8歳の1,567人を5年間追ったGeneration 100研究(Stensvold ら、2020年)では、高強度インターバルの全死亡のハザード比は0.63(0.33〜1.20)、中強度は1.24(0.73〜2.10)で、どちらも対照群と有意差はありませんでした。対照群は中強度群より高強度の運動を多く選び、強度は両群の中間になっていました。参加者の多くがもともと健康で活動的だったことも、差を見えにくくしました。
エピジェネティック時計は運動で若返るのか。44研究、145,465人を対象にしたShan らのメタ解析(2026年)では、運動量が多いほどHorvath時計とGrimAge時計の加速が小さい関連がありましたが、統合できたのは横断研究7本で、関連の大きさも小さく、Hannum時計とPhenoAge時計では関連がありませんでした。フレイルの高齢者47人の無作為化試験(Olaso-Gonzalez ら、2026年)ではPhenoAgeが下がりましたが、栄養介入との組み合わせで、試験登録は事後、他の時計では差がありませんでした。
HYROXは若返らせるのか。2026年10月にPubMedで「HYROX」を検索して出た10件をすべて確認しましたが、長寿や老化の指標を扱った研究はありませんでした。前向きな材料はあります。最初の生理学的研究(Brandt ら、2025年、愛好家11人)は、HYROXを走行中心で、他の同種の形式と比べて最大筋力の要求が中程度以下とし、健康づくりに向きうると述べています。同種の高強度機能的トレーニングのレビュー(Villarroel López ら、2025年、39研究、主にCrossFitなど)では、最大酸素摂取量で8〜15%、主要種目の筋力で10〜20%の向上がよく報告され、鍛えた人ほど顕著でした。一方、選手89人の12週間の調査(Chittenden ら、2026年、週ごとの回答率は平均62%)では、週ごとの平均で約30%が何らかの健康問題を抱え、けがの7割以上が使いすぎによるもので、最も多い部位は膝でした。体力は伸びる、けがもある。若返るかは、まだ誰も測っていません。
架け橋:「若さ」を、どの細胞で、いつ測るのか
ここまでの話を、基礎と臨床の溝という観点で置き直します。
臨床の側には、死亡や移動障害という「遅いけれど重い」アウトカムがあります。基礎の側には、テロメラーゼ、テロメア、エピジェネティック時計といった「速いけれど遠い」指標があります。そして、その速い指標の多くは血液の免疫細胞で測られています。
Werner らの論文を細かく読むと、この点がよく分かります。同じ論文の別の小規模試験(中等度に鍛えた若い15人のクロスオーバー)では、45分のランニング1回で、白血球・好中球・単球の数が一時的に増えて24時間で元に戻り、CD34陽性の造血前駆細胞は最も大きく増えました。分けて調べた6種類の細胞のうち、テロメラーゼ活性が検出されたのはCD14陽性の単球とCD34陽性細胞だけで(10人で測定)、ヘルパーT細胞やキラーT細胞、B細胞、NK細胞では検出されませんでした。そして6か月の試験では、主な白血球の数は群間でも前後でも変わらなかった一方、CD34陽性細胞は持久系の群で増えていました。
ここから、筆者は次のように考えます(筆者の解釈です)。単核球全体のテロメラーゼという指標は、テロメラーゼを持つ少数の細胞がどれだけ含まれるかにも影響されうる。一方で、急性の試験では分けた細胞あたりの活性も上がり、6か月の試験ではリンパ球と顆粒球を分けて測ったテロメアも伸びているので、細胞構成だけで説明しきれるとは限りません。ただ、6か月の試験では細胞を分けて活性を測っておらず、どこまでが構成の影響かは、この論文からは切り分けられません。運動の効果を否定する話ではなく、指標の読み方に「細胞の顔ぶれ」という変数が混ざりうる、ということです。運動直後の動員は別の研究(Kröpfl ら、2020年)でも示され、よく鍛えた21人で、高強度インターバル運動の10分後に血中のCD34陽性細胞の濃度が上がりました(一方で、単核球に占める割合は下がっていました)。エピジェネティック時計でも、13コホート・13,089人のメタ解析(Chen ら、2016年)で、加齢に伴う免疫細胞構成の変化を組み込んだ推定値が、死亡との関連で最も小さいp値を示しました(構成の影響を除いた推定値も死亡を予測しています)。
この見方から、臨床で検証できるプロトコルの「種」が見えてきます(筆者の提案で、検証された方法ではありません)。
- 採血のタイミングをそろえる。Werner らの6か月の採血は最後の運動から2〜7日後と幅がありました。最後の運動からの時間を記録し、固定する。
- 細胞を分けて測る。単核球全体ではなく、少なくとも白血球の分画を併記し、可能なら細胞を分けて測る。指標の変化が細胞そのものの変化か、構成の入れ替わりかを分けるためです。
- 実際の運動量を機器で測る。Generation 100研究では対照群が自主的に高強度の運動を行い、群の差が薄まりました。割り付けた量ではなく、機器で測った量で解析する。
この往復を速めるのが、AIとビッグデータです。鍵は「処理能力」と「フラグの立て方」。たとえば、「最大酸素摂取量は群の平均以上に伸びたのに、テロメラーゼが上がらない人」「テロメラーゼは上がったのに、そのとき白血球の分画も大きく動いていた人」にフラグを立てる。機器の連続データ、採血の時刻、細胞分画、複数の時計を同じ表に並べれば、人が何年もかけて気づく交差点を早く拾い、次の試験の設計と、基礎の仮説に戻せます。基礎と臨床の溝を浅く、短くする作業の具体的な形は、ここにあると考えています。
筆者の見解
ここからは、研究の結果ではなく、筆者の見解です。
- 最も大きな差は、ブームの外側にある。死亡との関連の差が最も大きいのは「ゼロから少し」の区間です。ジムやHYROXで「もっと」を目指す人の多くは、すでに曲線の平らな部分にいる可能性があり(筆者の推測)、そこで増えるのは利益より、使いすぎのけがかもしれません。
- 有酸素と筋トレは、換算率の違う通貨。体力という同じ額面が、細胞の指標にどれだけ換わるかは運動の種類で違って見えました。片方に寄せるより、両方を持つほうがデータとよく合います。
- 血液の「若さ」は、免疫細胞を通して見た写真である。微生物学・免疫学を学んだ立場から見ると、血液のテロメアやメチル化の指標は、どの免疫細胞を、いつ撮ったかに影響されうるものです(影響の大きさは指標の種類で異なります)。測り方をそろえないまま「若返った」と言うことには慎重であるべきです。
- 処方は、応答とセットで考える。同化抵抗性のデータは、高齢者では同じ運動への応答が弱いことを示し、安静明けの人でも、アミノ酸への応答が弱まるデータから推して、同様の可能性があります(筆者の推測)。「何分」という一律の処方より、その人の筋肉がいまどれだけ応答するかを測る発想が要ります。
事例:職場の健康づくりに、曲線を当てはめる
最後に、産業保健の場面に置いてみます。
職場の運動施策は、歩数イベントやジムの補助のように、もともと動いている人がさらに動く形になりがちだと筆者は感じています。Arem の曲線から読めるのは、死亡リスクとの関連の差が最も大きいのは、まったく動いていない人が「少し」動き出す区間だということです。Stamatakis らのデータは、その「少し」が1回1〜2分、階段や急ぎ足の単位でも意味を持ちうることを示しています。
そこで、施策の評価指標を一つ変えることを提案します。「参加者が記録をどれだけ伸ばしたか」ではなく、「施策の前後で、週0分から週1分以上に移った人の割合」です。すでに高い頻度で運動している人には、「もっと」の前に、使いすぎのけがの確認が先です。
なお、持病や症状のある方、運動習慣がまったくない方、高齢の方は、運動を始める前にかかりつけの医師に相談してください。この記事は特定の運動方法を勧めるものではありません。
次回は、筋肉量とホルモン(テストステロン・成長ホルモン・IGF-1)の関係を、相関と因果に分けて扱う予定です。
よくある質問
Q. 有酸素と筋トレは、どちらか一方だけでも意味がありますか?
どちらにも死亡や疾患のリスクの低さと関連する根拠があります。ただし、体力は同程度に上がっても血液細胞の指標が割れた試験があり、両者は違うところに働きかけている可能性があります。両方を組み合わせた人はリスクが低い方向のデータがあり、WHOのガイドラインも両方を勧めています。
Q. 有酸素運動をすると、筋肉が分解されて損をしませんか?
古典的な研究(Rennie ら、1981年)では、中強度の長時間運動中はアミノ酸の異化が大きく上がり、全身のたんぱく質の合成が下がって分解が上がりましたが、運動後には合成が分解を上回って収支がプラスに転じ、筋原線維の分解の割合は運動で下がると解釈できる結果でした。食事をとった状態の男性を間接的な指標で見た単一研究ですが、「走ると筋肉が溶ける」とは単純には言えません。
Q. 老化指標(エピジェネティック時計など)で、自分の運動の効果を測れますか?
研究段階です。時計の種類によって運動との関連の有無が異なり、血液の細胞構成や採血のタイミングにも影響されえます。現時点では、検査値で個人の運動の「正解」を決めることはできません。
参考文献
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執筆:藤井祐介(Ph.D. 微生物学・免疫学/東京大学大学院医学系研究科 客員研究員)。本記事は研究知見の一般的な解説であり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。また、特定の製品の効能効果を示すものではありません。健康上の判断は医師にご相談ください。