Insights · 2026.10.04 · 一般向け

ハワイ大学で3つの講義:ロンジェビティー、Cool Japan、国際キャリア

2026年1月、ハワイ大学ウエストオアフ校の招聘で、アメリカと韓国の学生を中心に3つのテーマで講義を行いました。健康長寿をビジネスとして届ける仕組み、日本の創造産業の考え方、国境を越えて働くための設計図。その内容を報告します。

ハワイ大学の教室で、スライドの前に立ち笑顔で学生と話す藤井祐介

3行でまとめると

  • 2026年1月28日と30日、ハワイ大学ウエストオアフ校(UH West Oʻahu)の招聘を受け、学生向けに3つのテーマで講義を行いました。
  • 聴講したのは主にアメリカと韓国の学生で、1回あたり約40名、多い回では約150名でした。
  • 3つの講義に共通するメッセージは一つです。才能や知識だけでは届かない。届けるための「仕組み」を設計しよう。

講義の概要

ハワイ大学ウエストオアフ校の国際短期プログラム(International Short-Term Program)から、2026年1月13日付の招聘状でゲストスピーカーとして招かれ、2日間にわたって講義を担当しました。大学からは「医療分野で職を得るには」「日本で成功するキャリアを築くには」というテーマで依頼を受け、そこから3つの講義に構成しました。1月30日の講義は、マノア校のキャンパスで行われています。

ハワイ大学ウエストオアフ校 Office of Global Engagement から藤井祐介に宛てた、2026年1月13日付の特別講義の招聘状
ハワイ大学ウエストオアフ校からの招聘状(2026年1月13日付)。署名と連絡先はぼかしています。
項目 内容
日程 2026年1月28日、1月30日
招聘 ハワイ大学ウエストオアフ校 Office of Global Engagement(2026年1月13日付 招聘状)
対象 学生(アメリカ、韓国が中心)
人数 1回あたり約40名〜約150名
言語 英語

講義のテーマは次の3つです。

  1. The Business of Healthcare and Longevity(ヘルスケアとロンジェビティーのビジネス)
  2. Cool Japan Mindsets(日本の創造産業に学ぶ、異文化ビジネスの考え方)
  3. Designing Your Global Career(国境を越えて働くためのキャリア設計)

ハワイは、ハワイの「アロハ」がつくる信頼、韓国の「パリパリ(빨리빨리)」に象徴される実行の速さ、アメリカの仕組み化と拡大の力が交わる場所です。どの講義でも、学生たちに「あなたたちは東と西をつなぐ橋になれる」と伝えることから始めました。

スライドの前で身ぶりを交えて説明する藤井祐介と、ノートパソコンを開いて聴講する学生たち
Cool Japan Mindsetsの講義。日本のコンテンツが、テレビから配信まで、届け方の進化とともに世界に広がった流れを解説。

講義1:ヘルスケアとロンジェビティーのビジネス

医療系のキャリアを目指す学生に向けて、健康長寿(ロンジェビティー)を「届ける」ための仕組みを話しました。

知識と行動のあいだのギャップ

医学は大きく進歩し、老化の仕組みも少しずつ解き明かされています。それでも、現場では治療計画が守られないことが少なくありません。WHOの報告書は、先進国の慢性疾患患者の服薬アドヒアランス(指示どおりに治療を続けること)は平均で約50%にとどまるとしています(WHO, 2003)。

講義では、これを「医学の失敗ではなく、仕組みとビジネスの失敗」と位置づけました。正しい知識があっても、続けられる設計がなければ、患者さんの結果は変わりません。

病気を待つ医療から、機能を保つケアへ

従来の医療は、病気になってから治療を始めます。これに対してロンジェビティーのケアは、機能が落ちる前に整えることを目指します。睡眠、栄養、運動、ストレスへの対処は、将来のための「貯金」のようなものです。だからこそ、20代から始める意味があります。

チームで支え、数字で確かめる

F1のピットストップでは、約20人のクルーが約2秒でタイヤ交換を終えます。ドライバーだけではレースに勝てません。医療も同じで、医師、栄養士、看護師、セラピストが役割を分担し、一つのチームとして患者さんを支える必要があります。

成果は、本人の実感と客観的な指標の両方で確かめます。たとえば握力は、簡単に測れるうえに、将来の死亡リスクと関連することが17か国・約14万人の研究で示されています(Leong et al., 2015)。

価値の方程式と「ディップ」

価値は「(成果 × 信頼)÷ コスト」で決まる、という考え方を紹介しました。値下げで競うより、成果を明確にし、信頼を積み重ね、患者さんの手間を減らすほうが価値は高まります。

もう一つ強調したのが「ディップ(落ち込み)」です。始めたばかりの高揚感が薄れ、まだ結果も出ていない時期に、多くの人がやめてしまいます。この時期を見越して、こまめな連絡や進捗の見える化をあらかじめ組み込んでおくことが、継続の鍵になります。

講義2:Cool Japan Mindsets

歴史の授業の一コマとして、日本のアニメやマンガが世界に広がった理由を、ビジネスの視点から読み解きました。

ソフトパワーと「届け方」の進化

政治学者ジョセフ・ナイは、ソフトパワーを「強制や報酬ではなく、魅力によって望むものを得る力」と定義しています(Nye, 2004)。日本のコンテンツは、テレビ放送、ビデオ、インターネット配信、そしてストリーミングと、届け方が進化するたびに世界の視聴者を増やしてきました。

日本の仕組み:メディアミックスと製作委員会

日本では、マンガで物語を試し、アニメや映画へ広げ、グッズや観光にまでつなげる「メディアミックス」が発達しています。複数の企業が出資してリスクと利益を分け合う「製作委員会」も、日本独自の仕組みです。合意形成には時間がかかりますが、そのぶん関係者の足並みがそろいます。

3つのマインドセット

  • 改善(Kaizen):大きな飛躍より、毎日1%の積み重ね
  • 職人の精神:細部への配慮が、そのまま信頼になる
  • 長期の視点:四半期ではなく、何年、何十年の単位で関係と作品を育てる

あわせて、名刺の受け渡し、時間を守ること、会議後に決定事項を文書で確認することなど、日本の相手と仕事をするための実践的な作法も紹介しました。講義の後半では、学生が自分だけの小さな物語(ミニIP)を考え、それをどう広げていくかを設計するワークを行いました。

講義3:国境を越えて働くためのキャリア設計

専攻を問わず、これから社会に出る学生に向けた講義です。キャリアを「3つのエンジン」で考えることを提案しました。

  1. 体(ハードウェア):睡眠、栄養、運動。集中力を保てるかどうかが、仕事の質を決めます。20代の無理は、30代に請求書として届きます。
  2. チーム(ソフトウェア):誰が決め、誰が何を担うのか。役割と言葉をそろえなければ、才能ある人が集まっても混乱が生まれます。
  3. 文化(ネットワーク):アメリカ、韓国、日本では、仕事の進め方そのものが違います。

「はい」の意味は国によって違う

アメリカの「Yes」は、多くの場合「同意し、実行する」という意味です。一方、日本や韓国の「はい」は「聞いています」「理解しました」という相づちであることが少なくありません。この違いが、国際的な共同事業の行き違いの大きな原因になります。講義では、「確認させてください。X を Y 日までに進める、という理解でよいですか」と、次の行動を言葉にして確かめる習慣を勧めました。

1年で取り組む3つの目標

最後に、学生一人ひとりに次の3つを書き出してもらいました。

  • 自分の価値を大きく高めるスキルを一つ
  • 日本語や韓国語など、言語の目標を一つ
  • 現地のコミュニティへの参加や短期プロジェクトなど、異文化を体験する目標を一つ

講義を終えて

3つの講義のテーマは異なりますが、伝えたかったことは同じです。知識や才能は、届ける仕組みがあって初めて人の役に立つ。

これは、私たちイームスの仕事そのものでもあります。科学的な根拠を、製品として、教育として、そして医療機関や企業で実際に回る仕組みとして形にする。海外の学生と議論を重ねる中で、日本の医療・ウェルネスの知見と実践が、国境を越えて求められていることを改めて実感しました。

今回のような講演・講義のご依頼も承っています。テーマや対象に合わせて構成からご相談ください。

参考文献

  1. World Health Organization. Adherence to long-term therapies: evidence for action. Geneva: WHO; 2003.
  2. Leong DP, Teo KK, Rangarajan S, et al. Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. Lancet. 2015;386(9990):266-273.
  3. Nye JS Jr. Soft Power: The Means to Success in World Politics. New York: PublicAffairs; 2004.

執筆:藤井祐介(Ph.D. 微生物学・免疫学/東京大学大学院医学系研究科 客員研究員)。本記事は研究知見の一般的な解説であり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。また、特定の製品の効能効果を示すものではありません。健康上の判断は医師にご相談ください。

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