Insights · 2026.10.10 · 一般向け

レーシングドライバーの身体で何が起きているのか — 「集中力」を生理学で考える

イームスはレーシングチームとドライバーを、検査と栄養の面からサポートしています。極限環境でドライバーの身体に起きていることを、研究データから読み解きます。

コンマ1秒の世界を、身体の側から見る

株式会社イームスは、RAGNO MOTORSPORTSとそのドライバーのスポンサーとして、血液検査に基づく栄養解析、栄養設計、コンディション管理をサポートしています。あわせて、SUPER GT・GT500クラスで戦うドライバーの身体のケアも担当しています。検査から始まり、食事の指導、サプリメンテーションまでを一貫して行っています。

夕暮れのサーキットを走る、iiimsロゴを掲出したフォーミュラカー
iiimsがスポンサーとして支える、RAGNO MOTORSPORTSのマシン。

モータースポーツに関わる理由は一つです。サーキットは、「ストレスが身体にどう作用するか」が最も凝縮して現れる現場だからです。

ドライバーの身体にかかる負荷

レーシングドライバーは「座って運転しているだけ」と思われがちです。しかし研究データが示す身体への負荷は、決して小さくありません。

  • 深部体温と心拍数:暑い環境でのツーリングカーレース(V8スーパーカー)を調べた研究では、ドライバーの深部体温はレース前の平均37.7℃から、レース後には39.0℃まで上昇しました。心拍数は、レース時間の85%以上で毎分160拍を超えていました(Brearley & Finn, 2007)。
  • 実戦とシミュレーターの違い:同じ5名のドライバーで比べた研究では、実際のレースでの最初の1時間のスティントのうち、最後の50分間の心拍数は平均159拍/分でした。同じレーシングスーツを着用し、高温に設定した室内(約38℃。実戦のコックピットは平均約41℃)で行ったシミュレーター走行では112拍/分にとどまっています。著者らは、この差をG負荷と、競争による心理的ストレスによるものと考察しています(Holland et al., 2025)。

つまり、ドライバーの身体を消耗させているのは、熱と重力だけではありません。プレッシャーそのものが、生理的な負荷になっています。

フォーミュラカーのサイドに掲出されたiiimsと株式会社イームスのロゴ
グリッド上のマシン。サイドポッドにiiimsのロゴ。

崩れるのは「反射」より「注意」

33研究をまとめたメタ解析では、脱水によって注意力と運動協調性が有意に低下し、その影響は体重の2%を超える脱水でより大きくなりました。一方、反応時間を測る課題では有意な低下は見られませんでした(Wittbrodt & Millard-Stafford, 2018)。

これはレースにとって重要な示唆です。ライトが消えた瞬間に反応する力より先に、長いスティントの中で「注意を保ち続け、正しく判断し、正確に操作する力」が崩れていく可能性があります。

野球からサーキットへ

私はこれまで、多くのスポーツ選手、とりわけプロ野球選手の血液データを解析し、栄養とサプリメンテーションのサポートをしてきました。競技が変わっても、現場で求められることは共通しています。

一つは、長い時間、集中を切らさないこと。もう一つは、シーズンを通して怪我なく戦い続けることです。どちらも、気合いや才能だけでは支えきれません。身体の状態を数値で確認し、足りないものを補い、崩れる前に手を打つ。その積み重ねが、本番で本来の力を出すための土台になります。

iiimsのアプローチ

私たちが行うのは「速くする」ことではありません。ドライバーが本来の力を発揮できない理由を、一つずつ取り除くことです。

  1. 血液検査による現状把握:栄養状態、炎症、エネルギー代謝などの指標から、身体の状態を数値で確認します
  2. 栄養設計と食事指導:検査結果とトレーニング・レース日程に合わせて、食事と栄養補給を設計します
  3. 水分・暑熱対策:レースウィークの水分と電解質の管理を計画します
  4. 睡眠とリカバリー:移動と連戦の中で回復の質を保つ生活設計を行います

身体の状態は一人ひとり異なり、同じ選手でもシーズン中に変化します。検査に基づいて調整を続けることが、このサポートの中心です。

経営者・医師・高ストレス職種への示唆

心理的プレッシャーが心拍や体温調節に影響し、判断の質を左右する。この構造はサーキットに限りません。長時間の手術を行う医師、重要な意思決定を続ける経営者など、高いストレス下で集中を保つ必要がある人すべてに共通します。

イームスは、サーキットという極限環境で得た知見を、クリニックや法人向けのソリューションにも還元していきます。

参考文献

  1. Brearley MB, Finn JP. Responses of motor-sport athletes to V8 supercar racing in hot conditions. Int J Sports Physiol Perform. 2007;2(2):182-191.
  2. Holland J, Davis M, Ferguson D. Physiological responses of race car drivers in authentic and simulated motor-racing. Front Sports Act Living. 2025;7:1498686.
  3. Wittbrodt MT, Millard-Stafford M. Dehydration impairs cognitive performance: a meta-analysis. Med Sci Sports Exerc. 2018;50(11):2360-2368.

執筆:藤井祐介(Ph.D. 微生物学・免疫学/東京大学大学院医学系研究科 客員研究員)。本記事は研究知見の一般的な解説であり、特定の疾病の診断・治療・予防を目的とするものではありません。また、特定の製品の効能効果を示すものではありません。健康上の判断は医師にご相談ください。

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